Pocket

最初からお読みになりたい方はこちらです→はじめに プロローグ

 第2章 パウロス・アポストロス

「日本語の聖書では「使徒となったパウロ」と、とても穏やかな表現で書かれています。
でも原文のギリシャ語をみると、いきなり「パウロス、アポストロス」と書かれているのです。」

「「俺はパウロだ! 使徒である!」ぐらいな、強烈な書き出しですよね。」

「おおーっ すげー。「拝啓」なんて、書かれるよりも、めっちゃ いけてるよな。」

(晴美さん、気持ちはわかるが、ここは大事なところなんだ。)

そして、私が「使徒」となったのは、決して人間的な決定によるのではなく、
まして「マッテヤ」のようにくじで選ばれたのでもなく、まさに「父なる神」によったのである。
と非常に挑戦的な、ある意味「戦闘的」ともとれるような書き出しで始まっているのです。

「ガラテヤの諸教会へ」と切って捨てているような書き出しも異様です。
他の手紙には「神に愛されている」などの形容詞をつけて親愛の情を示しています。

この手紙が教会で朗読された時には、「何がおこったのだろうか」と皆、襟を正して座り直したにちがいありません。」

 ガラテヤの諸教会だけでなく、あの晴美さんまでもがきちんと座り直しているのがとても愉快だ。
きっと、パウロがこの手紙を書かなくてはならなかった危機的状況を、うっすらとながら感じ取っているに違いない。

「先生、でも3節から5節までは普通にもどってますよね。」

 学くんが、実に的確な質問を投げかけてくる。

「そうなんですよ。、パウロもここで「はた」と正気にもどったんじゃないでしょうか。
この部分はいわゆる「祝祷と頌栄」と呼ばれる文章ですね。
でも、6節からまたパウロは「ガツン」といきますよ。」

「私は、あなたがたがこんなにも早く召してくださった方を見捨てて、
「ほかの福音」に移っていくのに驚いています。」



「もちろんほかに福音があるわけではありません。」

プリントを見てくださいね。ここでかかれているのは「まったく別物」という意味です。
7節に書かれている「かき乱す者たち」が教会に入ってきて、キリストの福音を
「別のもの」に変えてしまおうとしていたのです。」

「ここで、パウロによってガラテヤの人々にもたらされた素晴らしい救いの訪れが、
「かき乱す者たち」によって破壊されようとしていました。」

「彼らは「キリストの福音を変えてしまおう」としていたのですね。」

「パウロは憤って語ります。「たとえ「天の御使いであろうと」福音に反することを宣べ伝えるなら
「その者はのろわれるべきです。」

「すげーな。「そんな奴は地獄へ落ちろー」みたいな感じだろ。」

 晴美さんがまた「ちゃちゃ」を入れる。

「そうですね、実は晴美さんが言ったことはあながち間違いではないのです。

ここで使っている「のろわれよ」という言葉は「アナセマ」という言葉で、
最後の審判で霊魂が神から引き離されて、滅亡の中にある状態を指すのです。

まさに「裁かれよ。地獄へ行け」ぐらいな勢いですよね。」

「パウロにとっては、せっかく宣べ伝えられた福音が、
「かき乱されている」ことに我慢ならなかったのでしょうね。」

突然、学くんが割り込んできた。

しかし、この真理 学という少年。恐ろしいほどに理解が早い。

私は気を取り直して、また説明を続けることにした。

「11節からは、パウロの宣べ伝えた福音が、「人から教えられたもの」ではなくて、
実に「キリストによって啓示されたもの」であることが記されています。」

「キリスト教を迫害していたパウロはダマスコの途上でイエス様と出会い、救いに導かれた後、
誰にも会わずに、ずっとその地に留まっていました。
イエス様ご自身から戴いた「その救いの啓示」を黙想していたのかもしれませんね。」

「先生。どうしてパウロは、ヤコブ以外の他の使徒には誰も会わなかったのでしょう?」

 学くんが鋭い質問を投げかけてくる。

「ペテロやイエス様の兄弟であったヤコブには会っています。
きっとイエス様が地上で歩まれた日々の事を聞きたかったのでしょうね。」

「他の使徒たちに会わなかったのは、「福音の純粋性を保つ」という意味があったと言われています。
パウロはイエス様から直接に啓示を受けています。そこに人間的な要素は何も加えたくなかったのでしょうね。」

「あっ、もう時間を過ぎてしまいましたね。来週は2章を読み解いていきたいと思います。
いつものように2章全部を読んできてくださいね。」

 クラスを去って行く子供たちの後ろ姿をみながら、私は少し不安になっていた。

「ものの勢い」でガラテヤ書を選んでしまったものの、中学生にはまだ難しかったのではないだろうか。

 しかし、そんな気持ちも、きらきらとした瞳を輝かせながら、
まだ質問をしたそうに待っている学くんの姿を見るうちに確信に変わってくる。

 (うん、これで良かったんだよね。)

第3章 テトスの危機へ 続く

↓のボタンを押して頂けると励みになります。

にほんブログ村 哲学・思想ブログ キリスト教へ
にほんブログ村